結婚式前日の出来事
コンピエーニュ城でぐっすり眠った翌日、パリに向かいました。うわさに聞いていた憧れのパリに一泊して、有名なモニュメントをいくつか見たかったのですが、ただ通過しただけで、とてもがっかりしました。でも、結婚したら絶対にパリ通いをしようと心の中で決めていました。そうした秘め事を抱えた私を乗せた馬車は、ブローニュの森のはずれにあるラ・ミュエット城に到着。
ラ・ミュエットには18世紀から小さいシャトーがありました。それが時代が変わり、国王が変わるたびに増築、改築がなされ、私が行ったときのシャトーは、ルイ15世が建築させた優雅な建物でした。フィアンセのルイ・オーギュストさまが10歳になったとき、祖父ルイ15世がラ・ミュエット城をプレゼントしたのです。何て寛大な方でしょう。大き過ぎず、家庭的なアンビアンスがあるラ・ミュエット城をすっかり気に入った私は、結婚後何度も滞在しました。
ラ・ミュエット城 ヴェルサイユ宮殿での結婚式前日に泊まったシャトー。 |
私がラ・ミュエット城に到着した日の夜、豪華な晩餐会が開かれました。国王一家を囲んでの会食なので、ちょっと緊張しました。でも、目も覚めるほど美しい女性が入っていらしたときに、ざわめきが起きたので緊張は一挙に飛んでしまいました。
その女性が誰なのか、さっぱり検討がつきませんでした。通常は初めて会う人を紹介するのに、その時はなぜか、誰も私にお名前さえも教えてくださらなかったのです。国王はその女性の姿が見えると、とろけそうな甘い微笑みを浮かべ、その方がテーブルの末席に座るのを熱い瞳で見つめていました。
ゴージャスなジュエリーをたくさん付けているその方は、光の国から舞い降りて来たかのように輝いていました。その飛びぬけた美しさも、豪華なドレスも気になってソワソワしていた私に、ルイ15世は声をかけました。
「あの女性をどう思いますか」
感想を聞かれてちょっと驚きましたが、思った通りのことを伝えました。
「とてもチャーミングな方ですわ」
それを聞いて国王はまた微笑みを深くして、その女性を見つめるばかり。ますます気になった私。それで近くにいたノアイユ夫人に、思い切って質問しました。
「あの方は?」
するとノアイユ夫人は迷惑そうに顔をしかめながら、おっしゃったのです。
「国王を喜ばせたり、楽しませる人です」
それはいいお役目だと思った私は、
「まあ、私もそうなりたいです」
などと、とんでもないことを言ってしまったのです。何しろ私は14歳の未熟な少女。その女性が国王の愛妾デュ・バリー夫人だったことは、後になってわかりました。
いよいよ明日はヴェルサイユ宮殿で本当の結婚式。ちょっと興奮しましたが、すぐに眠りの世界に入っていきました。
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