着飾った往年のスターたちが行き交い、世界中の人々の羨望を独り占めしていたレストラン、マキシム。1893年に創立され、隅から隅まで華やかなアール・ヌーヴォーの装飾に包まれていて、一歩中に入っただけで自分が特別な人物になったような錯覚を起こさせる、格別な雰囲気。お料理を楽しむというより、そこに行くこと自体が価値あるレストラン。人生に宝石のようなキラメキを与えてくれる、魔法が潜んでいるようなマキシム。
目が覚めるばかりの豪奢な装飾。 アールヌーヴォーの優美な輝きに圧倒されます。 photo:Romain Ricard |
パリを代表する社交場だったこのレストランの顧客は、キラ星のごとく輝く人ばかり。マルセル・プルースト、ジャン・コクトー、マリア・カラス、オナシス、ユル・ブリンナー、アラン・ドロン、ジャンヌ・モロー・・・英国首相のチャーチルは常連客だったし、ロシア皇帝二コライ2世、ウインザー公爵夫妻もお気に入りだったそう。
最後のオーナーのピエール・カルダンが2020年に亡くなり、その後忘れられたような存在になったマキシムが、3年の年月を費やしてリニューアルし、2023年12月上旬にオープン。パリに再びまばゆい輝きを届けています。
パリの社交場として世界の著名人を迎えていたマキシム。 エントランスの装飾も、もちろんアールヌーヴォー。 |
ドアボーイが微笑みを浮かべながら開けてくれる両開きのドア。 その瞬間から夢の世界が目の前に広がるのです。 |
背の高い窓の鮮やかな色彩のステンドグラスが、 ベルエポックの良き時代を語っています。 |
バーもレストランと同じようにアールヌーヴォー。 着飾った紳士淑女が人生を横臥している光景が、 良き時代を象徴しています。1890年代。 |
伝説のレストラン、マキシムはロワイヤル通り3番地にありますが、この通りはルイ15世の時世につくられた由緒ある通りで、コンコルド広場とほぼ同じ時代。当時この広場は「ルイ15世広場」と呼ばれていて、国王のお気に入りの建築家アンジュ=ジャック・ガブリエルが担当。広場から延びるロワイヤル通りの左右には、均整が取れた同じファサードの建物が並び、それを貴族たちが購入し暮らしていたのです。
マキシムがある3番地の持ち主は、ルイ13世の時代に活躍した歴史上欠かせない重要人物、枢機卿であり、宰相も務めたリシュリュー公の5代目の子孫。
輝かしい経歴のリシュリュー公爵。 彼の館に誕生したのがマキシム。 |
この人の経歴がまたすごい。第5代リシュリュー公アルマンは、王妃マリー・アントワネットの近衛連隊に属していて、後年には祖父のあとを継いでルイ16世の内廷侍従長になります。革命が起きると王妃の希望でウィーンに行き、オーストリア宮廷に仕え、その後亡命したフランス貴族たちが集まっていたドイツ国境のコブレンツに赴きます。亡命貴族が率いる反革命軍の力が弱まると、ロシアのエカテリーナ2世の好意でロシア軍に属し、将校として大活躍し、勲章まで受賞。時が経ち、革命が終り、ナポレオンが失脚した後、フランス首相にもなった華々しい経歴の持ち主。
そうした第5代リシュリュー公の館に生まれたレストラン、マキシム。18世紀半ばに建築され、由緒ある貴族が暮らしていたという歴史と、本物のアール・ヌーヴォーが相まって、特有な存在感を発揮しているパリに欠かせないレストランです。
リニューアルオープンしたパリのエレガンスを代表するマキシム。 忘れられない思い出を作ってくれること間違いなし。 |
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