女官選びは自由自在
王妃になった私は、マダム・エティケットこと、ノアイユ伯爵夫人を直ぐに解雇しました。当然です。そのときの清々しい気分は、
まるで春のさわやかな風が、全身を勢いよく走っているようでした。彼女はよほど悔しかったのでしょう、女官長の職を失うと、間髪を入れずに叔母たち側についたのです。デュ・バリー夫人に声をかけてから、私の敵になった、あの嫌な叔母たちです。性格が悪い同士でさぞかし気があったことでしょう。
でも、今や私はフランスで最高の地位にいる女性。怖いことなど何もありません。王妃になって何もかも自分の思い通りにできるので、うれしくて仕方ありませんでした。服装もヘアスタイルも好きなようにし、宮廷の伝統などもできるだけ無視。例えば,起床の儀式や長い公開食事も、可能な限りはぶくことにしました。
当然、女官長も自分で選べるのです。貴族夫人がまわりにたくさんいましたが、その中から選んだのがランバル公妃。育ちの良さがあふれる、おっとりした性格の女性です。イタリアのトリノの名門貴族の家に生まれたマリー・テレーズ・ルイーズさまは、フランスの由緒ある高位の貴族ランバル公ルイ・アレクサンドルさまと結婚しました。けれども不幸なことに、翌年、公爵が亡くなりランバル公妃は若くして未亡人になってしまったのです。温厚な性格で優しさがある美貌のランバル公妃は、信じられないほど私に忠実で、最初の内は大満足でした。
育ちも性格もいいランバル公妃。 私に忠実で、全面的信頼を置けるプリンセス。 |
でも、刺激が好きな私は、おとなし過ぎる彼女に、日に日に物足りなさを感じるようになったのです。そうしたときに現れたのがポリニャック伯爵夫人でした。魅惑的な華やかな美しさを持つポリニャック伯爵夫人は、経済的にあまり豊かでなかったパリの貴族の家に生まれ、子供時代はヨランド・マルティーヌ・ガブリエルと呼ばれていました。偶然にも生年月日がランバル公妃とまったく同じで、私より5歳年上。16歳のときに結婚した相手は、ブルボン家に長年仕えていたポリニャック伯爵でした。
ポリニャック伯爵夫妻はそろって貪欲で、贅沢な生活を好み、その上ものすごい野心家。目が覚めるほどの輝きを放つ美貌に加えて、活発でハツラツとした華やかなポリニャック伯爵夫人は、完全に私好み。彼女をとても気に入っていたので、私のお城、プティ・トリアノンに頻繁に招いていました。そこでポリニャック伯爵夫人と過ごす自由な生活は、どれほど楽しく貴重だったことでしょう。彼女をずっと傍に置いておきたくなった私は、ランバル公妃に宮廷から離れるよう頼み、ポリニャック伯爵夫人を女官長にしたのです。
華やぎのある美貌の持ち主、ポリニャック伯爵夫人。 |
夫人の夫、ジュール・ドゥ・ポリニャック伯爵。 |
ところが伯爵夫人はお人好しの国王に取り入り、公爵の地位を要求しただけでなく、あれこれ理由をつけて、多額のお金をくり返し要求するようになったのです。さすがの私も危険を感じるようになり、夫のお蔭てポリニャック公爵夫人になった女官長を遠ざけることにしました。いつの世にも、権力者をできる限り利用し、自分の財産を増やそうと試みる人がいるのです。いい人生勉強になりました。
というわけで、ランバル公妃を呼び戻し、再び女官長に任命しました。このようなわがままを快く許してくださった彼女を今まで以上に信頼し、ランバル公妃も私のためなら何でもという気持ちを表していました。私たちの間には強い絆があったのです。
服装にもうるさかったマダム・エティッケットを追い出した私は、モードに自分らしさ、王妃らしさを何とか出したいと思っていました。お金もたっぷりあるし、王妃の地位にふさわしい華やかなドレスが欲しかったのです。
そう思っていたときにシャルトル公爵夫人が、才能あるデザイナーを紹介してくださったのです。モードに関心が深く、いつもステキな装いのシャルトル公爵夫人は、パレ・ロワイヤルの豪奢な館に暮らしていました。シャルトル公爵夫人のお兄さまと結婚してランバル公妃になったのが、私の女官長になった人です。このように、貴族は貴族と結ばれていました。
オシャレが上手なシャルトル公爵夫人。 彼女のお蔭でモードに関心を持つようになったのです。 |
シャルトル公爵はブルボン家の分家、オルレアン家に生まれ、父君が亡くなったときに称号を受け継ぎ、後年にオルレアン公となります。妻になったルイーズ・マリーさまも、太陽王ルイ14世と公妾モンテスパン侯爵夫人の間に生まれた子供の子孫で、名門貴族の血をひいています。
センスがいいシャルトル公爵夫人は、自宅近くの洋裁店「オ・グラン・モゴル」が気に入っていて、そこでほとんどのドレスを頼んでいたのです。デザイナーであり経営者は、ローズ・ベルタンと名乗る独身女性。私より8歳年上なだけなのに、飛び抜けた才能があるだけでなく、洋裁店を経営するビジネスの手腕も持っている人。彼女を知ってから私は、すっかりモードの虜になってしまいました。
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