世の中にはワタシが知らないことが多すぎる。
いつだったか、アパルトマンの管理人のマニュエルが、見たこともない箱を持ってきたの。
「お宅はネコがいるから必要ないでしょうけれど、管理会社からの指示なので置いていきますが」
って言いながら、わけのわからないその箱をキッチンに置いていったの。
それを見てママンが言う。
「いやになっちゃうわね。地下の水道工事をしたときから、数件にネズミが出るようになったんだって。だからネズミ取りを置いていったのよ」
そう言われてもワタシにはさっぱりわからない。
だって、ネズミなんて見たことがないんだもん。
いつだったか、アパルトマンの管理人のマニュエルが、見たこともない箱を持ってきたの。
「お宅はネコがいるから必要ないでしょうけれど、管理会社からの指示なので置いていきますが」
って言いながら、わけのわからないその箱をキッチンに置いていったの。
それを見てママンが言う。
「いやになっちゃうわね。地下の水道工事をしたときから、数件にネズミが出るようになったんだって。だからネズミ取りを置いていったのよ」
そう言われてもワタシにはさっぱりわからない。
だって、ネズミなんて見たことがないんだもん。
それから何日かたったある日の夜中、ワタシは見たの、黒っぽい小さい生き物を。もちろんママンは眠っていたから見たのは私だけ。
それがすごくかわいいの。小さい体をクルクル動かしながら、壁に沿って歩くのよ。時々立ち止まって、目を動かして様子をさぐっているみたいだったわ。ワタシは遠くから眺めていたから、その生き物はワタシに気がつかなかったみたい。そのうちその生き物はワタシのお皿に近づくじゃないの。ナニをするのかなって見ていたら、小さい両手をのばしてワタシのお夜食をひとつつまんで、さあ~てすごい勢いで電子レンジの後ろに消えてしまったの。ワタシはただびっくりするばかり。声も上げなければ、追いかけることもしなかったの。
次の日もまた小さい生き物が来て、同じようにワタシのお夜食を持っていったわ。ワタシは夜中に起きたことをママンには何も報告しないでいたの。毎日来てくれるので、お友だちができたみたいでうれしかったくらい。
そういう夜が何回か続いたある日の朝、
「ちっともネズミがかからないわ。ということは、我が家にはいないってことよね。あるいは君がいるから怖くて出ないのかも」
ってママンがワタシに言う。
「もしかしたら、ネズミ取りに付けたエサがよくないのかも」
そう言ってママンは冷蔵庫からカマンベールのチーズを取り出して、
やわらかくておいしそうな部分をつけてあげるじゃないの。
しかも高級なカマンベールよ。そうしたら、いつものように夜中に出てきたお友だちが、ワタシのお夜食には見向きもしないで、カマンベールめがけては箱の飛び込んだの。そのとたん、大きな音がして箱のフタが閉まったの。お友だちもびっくりしたみたいだけれど、ワタシもびっくり。
ママンが起きてくるまでじっとお友だちが入っている箱を見つめていたの。
だって。それでワタシはお友だちがネズミだって知ったのよ。
箱に入ったままのお友だちをママンはビニール袋に入れて、
「じゃ、ちょっと待っててね」
と言いながら出かけてしまったの。
どうするんだろう。ワタシはとても心配でしかたありませんでした。ママンが帰ってくるのを首を長くして待っていると、ドアを開けるなりワタシの頭をなでながら語ってくれました。
「あのネズミを公園に放してあげたの。あそこなら緑も多くて空気もいいし、レストランもいくつもあるから食べ物にも困らないと思って」
ああ、なんてやさしいママン。
その後なぜかネズミはぴったり来なくなりました。
本当はたまに遊びに来てほしいのだけど・・・・
それにしてもネズミが嫌われネコがかわいがられるなんて、世の中すごく不公平。
きっとネズミたちもそう思っているにちがいないわ。かわいそうに、グスン
そう思うワタシはナンていい性格の持ち主でしょう。