冬にクリニックに行くときの装い |
「冬でお外がすごく寒いのよ。だからセーターを着なくてはネ」
そう言いながらママンが見せた、セーターとかいう奇妙な物におびえたワタシは、逃げ回ったの。とうぜんよね。ネコはお洋服なんか着ないんだもの。そうしたらママンはワタシをむりやり抱っこしてバスルームに閉じ込めたの。
「はい、これで君はもう逃げられない。あきらめなさい。
これを着るの」
ママンは勝ち誇ったように、ニヤニヤしながら言うの。ひどい人。
だからワタシは声を限りに叫んだの。
「イヤッー!」
そうしたら敵も負けていない。
「むだな抵抗はしないの。着なくてはいけないの」
「ぜったいにイヤーッ!」
「ほんとに君はがんこネ。かぜをひいたら困るのよ。そうでなくても君は病気なんだから」
キャーッ、キャーッ、と言いながらバスルームでも逃げるワタシ。
たしかにワタシはママンが言うように病気よ。しっているわよね、
セーターなんか着たくないって 右へ左へ逃げ回るワタシ |
ワタシが 一度心臓が悪くなって入院したのを。実は心臓の近くに腫瘍ができているんだって。手術は危険だからしないで、そのかわりに大嫌いなお薬を毎日飲んでいるの。その効果をアタリ先生がみたいんだって。そんなのをみたいなんて、
先生も変わった趣味の人ね。
先生も変わった趣味の人ね。
こう言うの。
「これはね、カシミヤよ。君のために犠牲にして着せてあげるんだから、ありがたく着なさい」
それでもイヤなワタシは逃げたけれど、とうとうつかまってセーターにくるまれたの。その途端、そそうをしてしまったの。だってすごくこわかったんだもん。
「ギャーッ! 何てことをしたのよ君は!!」
今度はあの人が悲鳴を上げる番。それぞれ順番があるのね。
「君はほんとうにイヤーな性格ね。ああ、これでこのセーターはゴミ箱行き」
それでもあきらめないしつっこいママンは、今度はベージュのセーターをもってきて、ついにワタシは観念してそれを着ることになったの。
それからタクシーを呼んで、クリニックへ。
このように、冬にクリニックに行くのは、ほんとうにたいへんなこと。
ベージュのセーターは、この次のためにとっておくんだって。
そのときまでに体力をたくわえて、もっとがんこに抵抗できるようにしなくては。
だからワタシは毎日真剣にお薬を飲んで、真剣に食べています。