2015年6月9日

105歳 マダム・カルヴェンの美しい人生


メゾン「カルヴェン」の創立者、マダム・カルヴェンが6月8日、105歳の生涯を閉じました。
チャーミングな容貌と性格の
マダム・カルヴェン。
155センチの彼女はフランスでは「大デザイナーの中の一番小さい人」と呼ばれ、親しまれていました。

お洒落をしたい年齢のときに、小柄な彼女に合う服がなく、それが不満でインテリア・デザイナーをあきらめ、服のデザイナーになった人で、クリスチャン・ディオールと肩を並べるほど評価されていました。
明るい色を好み、フレッシュで、フェミニンで、チャーミングで飾り気がない作品は、彼女の化身ともいえます。

幸運なことに、パリのフォッシュ通りの豪奢なアパルトマンと、シャンティイ城に隣接する彼女の別荘のシャトーに行く機会に恵まれましたが、このような暮らしをしている人が実際にいるのかと、驚きで息を呑んだほど美しく幸せな人生を送っていた人です。ご主人が大金持ちのコレクターだったのです。

パリのフォッシュ通りのアパルトマン。
18世紀の家具、美術品の中で
日常生活を営んでいたのです。
パリのアパルトマンの各部屋には、名高い人の手による18世紀の家具、カーペット、オブジェが置かれ、壁を飾るのは著名な画家の作品ばかり。それは、まるで、ヴェルサイユ宮殿の縮小のように見えました。そういえば、訪問したときに出迎えたのは、きちんとした身なりの執事でした。

別荘のシャトーは、オーストリア皇后シシーが滞在していたこともあるそうで、その部屋が彼女の寝室。広大な庭では孔雀が色鮮やかな羽を大きく広げ、それからインスパイアしたドレスを創作したこともあるそう。
シシーが植えたという木の周りではカンガルーがピョンピョンと跳ねているし、花はいたるところに植えられ、芝生の緑がまぶしいほどで、ユートピアを目の前にしている思い。

シャンティイの別荘のシャトー。
オーストリア皇后シシーの
ベッドルームをマダムが使用。
過ぎ去った遠い日の懐かしい写真です。
水泳が好きで86歳まで水上スキーをしていたマダム・カルヴェン。南仏とカリブ海の島の別荘には、パリに太陽が少ない季節に毎年行くのだという。姿勢はいいし、歩くときには両手に重い荷物を持って「腕をきたえるために、こうするのが一番」と少女のような可愛い声で言っていた彼女に最後にお会いしたのは、靴の王者と呼ばれていたロジェ・ヴィヴィエが亡くなり、追悼ミサがサンジェルマンデプレ教会で行なわれた1998年。ピンクのスーツにピンクの靴の89歳の彼女の若々しい姿を、今でも克明に覚えています。

膨大な数の芸術品はルーヴル美術館に寄贈。GROG -CARVEN コレクションとして常時展示されています。その他ギメ博物館やモード博物館への寄贈も多く、このようにして彼女の名は語り続けられていくのでしょう。