2026年8月12日

マリー・アントワネット自叙伝 69


牢屋での一日

 

朝起きるのは7時ころでした。ヴェルサイユ宮殿に暮らしていた時代は、舞踏会とかゲーム、コンサートなどが夜遅くまで続いていたので、起きるのも遅かったのです。でもコンシエルジュリーに移されてからは、話し相手もいないし、ゲームをするわけでもないので、早めにベッドに入っていたために、自然に朝早くに目が覚めたのです。


起きて最初に口にするのはカフェかショコラでした。ロザリーが毎朝適度な温度に温めた飲み物を持ってきてくれて、彼女のあたたかみがある姿が見えるとほっとしました。

その後、ロザリーが貸してくれた小さな鏡に向かって髪を結います。髪を2つに分けてとかし、毛先を白いリボンで止めて上にあげるだけ。その後、長いヴェールとリンネルの帽子を被って終わり。


洋服は白と黒の2着だけだったので、あれこれ迷うこともありませんでした。王妃だった時と比べて、何もかもシンプルでした。私の面倒を見る人は、ロザリーの他にもう一人いました。私とほぼ同じ年齢のアレル夫人です。ご主人はパリ市の役人だと聞いています。冷たさがあり好きになれなかった人です。いつも監視しているような鋭い眼差しをしていました。

宮殿に暮らしていた時は
食器に自分の好みをいかしたセーヴル焼きを
いくつも注文していました。

昼食は変化に富んでいて、スープに始まり、野菜料理、にわとりか鴨の肉料理、そしてデザートでした。夜は特にお肉が豪華で、ハトとか牛肉、七面鳥が出ることもありました。 

食器はもちろん質素で、錫の軽いものでしたが、ロザリーがていねいに洗っていたので、ピカピカ輝いていました。飲み物はお水だけで、私が好きなのはタンプル塔でも飲んでいた、ヴェルサイユ近くのヴィル=ダヴレの泉の水。タンプル塔にまだ残っていたようで、それを運んできてくれました。


娘も義理の妹もいないので会話はなく、過ぎ去った日々に思いを馳せたり、二つのリングをはずしたり、はめたりをくり返したりして、ひたすら時間が経つのを待っていました。

屏風の向こうで、2人の看守がゲームに興じているのをのぞき見することもあったし、同じ本を何度も読み返すのも退屈しのぎになりました。冒険物が特に面白く『キャプテン・クックの冒険』とか『ヴェニスへの旅』『有名な難船の歴史』なども繰り返し読んでいました。

立派な図書室もあったのですが、
読書が苦手だったので、ほとんど手にしてませんでした。
並んでいる本は実は表紙だけキレイに作ってあり、
後は空っぽだったです。

手先を使うのが好きな私は、編み物をしたこともありましたが、一番好きだったのは刺繍です。ヴェルサイユ宮殿、チュイルリー宮殿、タンプル塔でも、エリザベート王女さまとおしゃべりしながらたくさんの刺繍をてがけました。コンシエルジュリーでも刺繍をしたいと思ったのですが、材料の糸がないので、タペストリーをほぐして糸を作り刺繍をしたこともありました。このように退屈な日々の連続でした。

結婚後、作っていただいた
14歳の私の最初の象。