2017年10月1日

イヴ・サンローラン ミュージアム

アンディ・ウォーホルによるイヴ・サンローラン。
サンローラン存命中から本社に飾ってありました。
イヴ・サンローランが71歳で世を去ったとき、長年、公私ともにパートナーだったピエール・ベルジェは、将来イヴ・サンローランのミュージアムを作りたいと抱負を語っていました。

それを人生の大きな目標のひとつにしていたベルジェは、細部に渡って吟味に吟味を重ねながら計画し、工事が進む様子を誰よりも楽しみにしていました。

黒をもっとも好んでいたサンローランでしたが、
モロッコで豊かな色彩に出会い、
それ以降、華やかな色のエキゾティックな作品が多くなります。

アートをモードに取り入れたサンローランは
美術品のコレクターでした。
「パリだけでなくマラケッシュにもミュージアムを作り、そのオープニングをほぼ同じ時期にする予定でいる」

お元気な姿を見せていたときに語るベルジェは誇らしげであり、それ以上に嬉しさを隠しきれないといった、晴れやかな表情を浮かべていたのが思い出されます。

「一番好きな色はと聞かれたら、躊躇することなく黒と答えます」
と語っていたサンローラン。

サンローランがクリエイトし続けていた
正統派エレガンス。
本来は作家になりたかったベルジェがサンローランに出会い、モードというまったく未知の世界に飛び込み、メゾン「イヴ・サンローラン」を創立し、その成功に全身全霊を捧げていたベルジェ。

彼なしではメゾン「イヴ・サンローラン」はこれほどの飛躍をしなかったことは、世界中が認めていること。

『私のメゾンへのオマージュと呼ばれる作品。

「ある日、ムッシュー・サンローランから電話があり、
素晴らしいシャンデリアを買ったので、
それを表現する刺繍をしてくださいと頼まれました」
と、ルサージュが裏話をしてくださったことがあります。
それを思い出しながら目の前にその作品を見るのは
大きな感動です。
サンローランが2008年に生涯を閉じると、ベルジェはその名を永遠不滅のものとするために、様々なことをしました。

中でも、2010年にプティ・パレ美術館で開催した「イヴ・サンローラン展」は、亡きサンローランへの最大のオマージュと言えるすばらしさでした。

デッサンも多数展示されています。
サンローランの稀有なクリエーションを辿るアートブックも毎年のように出版し、サンローランの名が、彼の偉業が、人々の記憶から消え去らないようにしていたベルジェ。

そうしたベルジェがもっとも力を入れていたのは「イヴ・サンローラン ミュージアム」設立でした。

ゴージャスなアクセサリーの展示方法が独創的です。

サンローランのアトリエ。当時のまま残っています。

アトリエのシンプルな机。

後ろに友人だったベルナール・ブュッフェが描いた
若き日のサンローランのデッサンが見えます。
パリのミュージアムは、イヴ・サンローラン本社を置くために購入したナポレオン3世の時代の瀟洒な旧邸宅で、後年ピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団となりました。

マラケッシュのミュージアムは、おふたりが格別に愛着を持っていた別荘マジョレル庭園に隣接し、10月半ばにオープンします。サンローランはこの別荘でほとんどのクリエーションをしていました。

この二つのミュージアムの完成とオープニングを誰よりも待っていたピエール・ベルジェでしたが、その数日前の9月8日に静かに旅立ちました。

オープニング・パーティー出席の殿方は皆、黒い服装。
サロンの壁にはサンローランのモノクロ写真が飾られています。


ピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団ディレクター、オリヴィエ。
15年来の知り合いです。

この日、何を着ていこうかと迷った末、
サンローラン存命中に買ったピンクの上着にしました。

ネックレスは当時いただいた貴重なもので、
友人と顧客にプレゼントしていたそうです。

このネックレスがミュージアムの展示作品のひとつとして
ガラスケースに入れられているのを見てびっくり。
今後は布地の袋に入れて大切に保管することにしました。


サロンでドリンク片手に談笑。
メゾンの人はほとんど知り合いなので、
まるで親しい友人に再会したかのように楽しい。

扉を開けたばかりのパリの「イヴ・サンローラン ミュージアム」に展示されているのは、正統派エレガンスの真骨頂の作品ばかり。感嘆しないではいられません。

「モードは去る、スタイルは残る」と語っていたサンローラン。彼は彼の彼だけがクリエーションできるスタイルを確立しました。展示作品を見ていると、彼のスタイルのアイデンティティが伝わってきます。

それゆえにベルジェは
「代理人によるオートクチュールなど存在しない。意味がない」
と、サンローラン引退と同時にオートクチュールに終始部を打ったのです。

サンローランが手掛けた作品は5000点。
その中から代表作を選んでパリのミュージアムで展示しているほか、デッサン、アクセサリー、貴重な記録映像もあります。

もっとも感動するのはサンローランのアトリエ。
壁際には本が高く並べられ、彼が使用していた机や、鉛筆などが当時のまま保存されています。

イヴ・サンローラン ミュージアム。
ナポレオン3世の第二帝政時代に建築された邸宅。

インテリアは当時の様式を重んじていて、
歴史と文化に造詣が深く敬意を表していた
サンローランとベルジェの配慮が伝わってきます。 
オープニングパーティーが終わって外に出ると、イリュミネーションの中に「イヴ・サンローラン ミュージアム」の文字を刻む建物が見えました。そのとき懐かしさが一挙にこみ上げ、胸が締め付けられました。

サンローランと言葉を交わしたのも、握手をしたのも、愛犬と通路を歩く姿を見たのもこの旧邸宅だった。
何度も訪れたベルジェの事務所も、この建物の階上にあった。
様々な思い出が去来し、しばらくその場を離れられませんでした。

今は「メゾン イヴ・サンローラン」ではなく、「イヴ・サンローラン ミュージアム」なのだ。イリュミネーションの中の文字がはっきりとそれを語っている。

サンローランのエレガンスはフランス文化でした。
メゾンにすべてをかけたサンローランもベルジェも、もはやいない。
人は去り、建物と思い出だけがいつまでも残る。
きっとこのミュージアムを訪れるたびにノスタルジーにかられるでしょう。

Musée Yves Saint Laurent
5 avenue Marceau
75116 Paris
01 44 31 64 00