2021年11月10日

マリー・アントワネットとダイヤモンド

 9月13日のブログでお知らせしたように、マリー・アントワネットのブレスレットが予定通り11月9日に、ジュネーヴのクリスティーズでオークションにかけられました。落札予想価格は4億円を超えるだろうと、世界の注目を集めていた貴重なジュエリー。

11月9日に競売にかけられたマリー・アントワネットのブレスレット。
112個のダイヤモンドが輝く3連のブレスレット2つが
ブルーのビロードのケースに入っていて、
「王妃マリー・アントワネットのブレスレット」と書かれています。
Christie's/photo presse

実際には予想をはるかに超える9億円の高値。フランス王妃マリー・アントワネットが所有していただけでなく、革命で「亡命」し、無事に娘の手に渡った劇的なヒストリーを込めているだけある。詳しいことは9月13日のブログを参照してください。

マリー・アントワネットのダイヤモンドといえば、忘れられない思い出がある。モロッコのタンジェでヴァカンスを過ごしていたときに知り合ったフランス人が、かなり変わっていて、服装も、言葉使いも、生活も何もかも世間からかけ離れていて、私たちと同じ時代に生きているように思えない。まるで数世紀前の世の中に生きている感じ。
「パトリック、あなたって18世紀の人みたいね」
 知り合って数日後に思っていたことを言うと、それが気に入ったのか、微笑みを浮かべながら、
「パリに戻ったら僕の別荘にいらっしゃい、いいものを見せてあげる」
 それが何かは教えてくれなかったけれど、彼のタンジェの別荘も信じられないほど豪華で、門から館まで車で行かないとくたびれてしまうほど広い。プールも2つあり、500人も招待して朝方まで招待客を楽しませるような人。

パリではモンマルトルの一戸建てに暮らしていて、そこでのディナーにも招待されたが、エレベーターまでありびっくり。そういう人であるから、別荘でウィークエンドをと誘われて興味を抱かないではいられない。

思った通りブルターニュ―地方の別荘は3階建ての瀟洒なシャトー。鉄の重厚な門から城館まで、左右対称に花々が植えられ、広大な裏庭にはコレクションのクラシックカーが数台並んでいる。ブルターニュ―地方の由緒ある伯爵の子孫であるパトリックは、両親がどちらも一人っ子で、莫大な遺産の受取人は彼ひとり。現実からかけ離れた生活も、彼の言動に一種独特な雰囲気があるのも、何となくわかった感じ。シャトーに泊まっている間に連れて行ってくださったどのレストランでも、ていねいに迎えられて緊張したほど。パトリックはこの地域の名士に違いない、とふと思った。

パトリックの別荘近くのレストランで。左がパトリック。

肝心の「見せたいもの」は、マリー・アントワネットが彼の先祖にプレゼントしたダイヤモンドでした。パトリックの先祖の伯爵はベルサイユ宮殿で王妃に仕えていて、ある日、乗馬をしていたマリー・アントワネットが馬から落ちそうになったとき、素早く駆け寄り助け、その感謝のしるしに、乗馬服のダイヤモンドのボタンをひきちぎって、プレゼントしたのだそう。それをパトリックは18世紀の服のポケットに入れて保管していたのです。

乗馬が好きだったマリー・アントワネット。

マリー・アントワネットがダイヤモンドに目がないのを知っていたけれど、王妃が実際に服につけていたダイヤモンドに触れられるなどとは、思ってもみなかった。このように王妃にまつわる宝石は、まだいくつもどこかに眠っていそうな気がする。