2022年2月1日

イヴ・サンローランへのオマージュ

 イヴ・サンローランが最初のコレクションを発表して、今年は60年記念の年。

20代の若いイヴ・サンローラン。

女性の装いに大きな影響を与えたイヴ・サンローランは、モードにアートを取り入れた非凡なデザイナー。モンドリアン、ピカソ、マチス、ゴッホ、レジェ、ブラックなど、20世紀を代表する巨匠たちの作品からインスピレーションを得てクリエイトした作品は、どれも意表をついた画期的のもの。

そこに焦点を置いて、彼へのオマージュはパリ市内の6つのミュージアムで開催。ポンピドゥーセンター、ルーヴル美術館、ピカソ美術館、オルセー美術館、近代美術館、イヴ・サンローラン美術館で1月29日から開催。開催期間はそれぞれのミュージアムによって異なるので、各ミュージアムのサイトで確認するのをおすすめします。例えば、ピカソ美術館は4月15日まで、ポンピドゥーセンターは5月16日まで、イヴ・サンローラン美術館は9月18日まで。

26歳の若いサンローランが1961年末にメゾンを設立し、初のコレクションを発表したのは1962年1月29日。場所はパリ16区のフォラン館。画家ジャン=ルイ・フォランが暮らしていた館で、振り返ってみると、当初からアートと深いつながりがあったように思えます。

2002年1月の最後のショーまで、40年間首位を保っていたサンローラン。
控えめでシャイな性格は変わることはなかった。


クリスチャン・ディオールが自分の跡継ぎと認めていたサンローランの才能は、ディオール亡き後、期待以上の評価を得ていたので、独立したサンローランのコレクションは、発表前から大きな話題になっていました。大成功をおさめたこの初のコレクションから引退するまで、イヴ・サンローランはフランスのエレガンスを世界に発信するデザイナーとして、賞賛を集めていました。

彼の偉業はスモーキング、パンツ、シースルー、サファリルックなどいくつも挙げられますが、アートとの関連性を重視した6つの美術館での数か月に及ぶ回顧展は、大変貴重なオマージュ。イヴ・サンローランの偉大さを再確認するまたとない機会です。

サンローランのパートナーであり、メゾンの発展に生涯をかけたピエール・ベルジェの著書「イヴ・サンローランへの手紙」(中央公論新社)の翻訳を手掛けられたのは、私にとって大変光栄なことです。今回のオマージュ展を知って再度読み直し、イヴ・サンローランとピエール・ベルジェのような稀有なお二人に数回お会いし、会話も交わせたのは、宝物のようなひとときだったと改めて思っています。

サンローランが最後まで使用していたアトリエ。
机の後ろには、友人だったベルナール・ビュッフェによる
若い日のサンローランのデッサンが飾ってあります。
このアトリエは今でもイヴ・サンローラン美術館に残っています。

「引退した後イヴは毎日メゾンに来ていたが、鉛筆を握ることはなかった」
とピエール・ベルジェが静かに話してくださったとき、
サンローランにとってモードが全てだったのだ、
それだけが生き甲斐だったのだと、
心を強く打たれたのを、今でもはっきり覚えています。
このアトリエを見るたびに、
特に机の上に置かれているデッサン用の鉛筆を見るたびに
それを思い出します。



イヴ・サンローランのビューロー。
ここでインタヴューをさせていただいたこともあります。
語る声は優しく、握手した手は細く温かかった。
彼の足元で愛犬ムジックがぐっすり眠っていたのが、深く印象に残っています。
サンローラン亡き後、メゾンは美術館に改造され、
このビューローは今では跡形も残っていません。

下は人懐っこく大好きだったムジックとの
貴重な仲良しツーショット。