2023年10月1日

マリー・アントワネット 自叙伝 8

フランス国王,フィアンセとの奇妙な出会い

ストラスブールを離れた馬車は、コンピエーニュに向かって走り続けていました。そこでフランス王家の人々にお会いすることになっていたのです。行き先々で相変わらず教会の鐘が鳴り、人々が興味深げに馬車に走り寄り、そのたびに笑顔でこたえるのにさすがに疲れていました。

コンピエーニュは大きな森で、王侯貴族のお気に入りの狩猟の場でした。その中ほどにシャトーがあり、到着した日に一泊するのです。森は5月の新緑がきれいだったし、そこから舞い上がる自然の香りも心地よく、ずっとそこにいたいほどでした。


突然、馬車が止まりました。シャトーに着いたのかと思って、あたりを見まわしましたがそれらしきものはない。シャトーはどこにも見えないのに、なぜか止まったのです。ベルヌという橋の近くでした。


何事かと馬車から顔を出すと、立派なユニフォームに身を固めた大勢の兵士の姿が見えました。その後ろで数えられないほどたくさんの人が、押し合っていました。群衆は何かを待っていたのです。

何かとは・・・・

未来のフランス王妃の私と、その私をお迎えするために、わざわざベルヌ橋までお出でになった、フランス国王ルイ15世の到着です。


突然、また突然、トランペットが高らかに鳴り響き、太鼓が華々しい音をあげました。それが国王到着を意味することがわかっていた私は、花で飾り立てた馬車から急いで降りて、国王の前に進み、ウィーンで何度も練習した通りに、最大の笑顔を浮かべて丁寧にごあいさつ。 

国王はおひとりではありませんでした。背が高いブルーの大きな瞳の殿方の姿が、国王のお隣に見えました。フィアンセのルイ・オーギュストさまです。笑顔を見せるわけでもないし、私のことが気に入らないかと心配したほど、無関心な態度。なので私もフィアンセに冷たい態度で接して、挨拶もそこそこにして、三人揃って馬車に乗りコンピエーニュ城へと向かいました。その道中、国王は孫のフィアンセの私がよほど気に入ったようで、ずっとご機嫌でした。


ベルヌの橋の近くで、ルイ15世とフィアンセにお会いしました。

 

コンピエーニュ城では着飾った王家の人々が勢ぞろいで迎えてくださいました。長々としたお定まりの楽しくもない挨拶の後、歓迎の会食があり、その後、私のお部屋で12のリングを試しました。後日、ヴェルサイユ宮殿での結婚式ではめるリングを選ぶためです。試したリングの中に、私の指にぴったり合うのが見つかったとき、その場にいた全員がほっとしました。何だかシンデレラになった気分でした。


コンピエーニュ城。深い森の中の優雅なお城です。

その日、私はシャトーに泊まりましたがフィアンセは、近くに館を持っているサン・フロランタン国務卿邸に泊まったのです。結婚前に同じ屋根の下に寝てはいけないという習慣がフランスにあったためです。わけのわからないことばかりの連続で、疲れ切っていたので、その夜はぐっすり眠ることができました。