ベルナデット |
それはその女性が望んだことでした。
ルールドの村人たちの間では、当然、ベルナデットのことが話題になりました。
ベルナデットが話すことをまったく信じない人も多くいましたが、彼女と同じようにその人を見たいと、好奇心にかられる人もいました。
洞窟に向かうベルナデットの後ろに人々が続くようになり、そのうち、洞窟は黒山の人だかりになるほどになったのです。
そうしたことには無関心のまま、ベルナデットは白い服の女性が出現するたびに、膝まずいて長い祈りを捧げていました。
2月25日のことでした。その日は雨が降っていましたが、洞窟には400人ほど集まっていました。一心に祈リ続けるベルナデットが、突然、祈りの途中で中断し、立ち上がりました。彼女は自分の周りを見回し、何かを探しているようでした。それからハッと思いついたように、ガーヴ川に向かいました。ところがその手前で足が止まったのです。
1872年のルールド |
後に尋問されたときにベルナデットは語りました。
「あの人が言ったのです。水のあるところに行きなさいって。それで川の方に行ったのですが、そうではありません、そこではないのですって言われました。それで私は一体どこなのだろうと迷っていたら、あの人が指差してくれたのです」
白い服の女性がベルナデットに教えたのは、洞窟の左側で、そこには雑草が生えていました。近づくと小さなくぼみがあり、その表面に泥が混ざったわずかな水が浮かんでいました。
ベルナデットが白い服の女性の指示でそこを手で掘ると、水がじわじわと現れてきたのです。泥まみれの水を何度かすくって捨てたベルナデットの顔が、急にほころびました。清らかな水がどんどんと沸いてきたのです。それを口にしたベルナデットは、足取り軽く家に向かって行きました。
その様子を見ていた人々は、争って今生まれたばかりに泉に近寄り、水を飲むのでした。
そのときから今日まで水は枯れることなくわいているのです。
3月25日、いつものように洞窟に向かって祈りを終えたベルナデットは、足早に歩きはじめました。彼女は何か口の中で繰り返しているようでした。
何度も何度も繰り返し、忘れないようにしているようでした。足はルールドの主任神父がいる教会に向かっていました。
つづく