国王救出を試みた バッツ男爵 |
タンプル塔から革命広場(現在のコンコルド広場)に向う間、ルイ16世は途切れることなく、臨終の詩篇を唱え続けていました。その隣りには、フェルモン神父が神妙な面持ちで座っていました。
ガタガタと音を立てながら進んでいた王の馬車が、現在のメトロの駅、ボンヌ・ヌーヴェル近くにさしかかったとき、
「国王を救おう!」
大きな声が群集の間から上がりました。
破格の資本家であり、王の相談役だったジャン・ピエール・バッツ男爵でした。
剣を振りかざしながら叫び続けるバッツ男爵は、群集が大挙して自分に続いてくることを願っていたのです。彼は王を土壇場で救い、しばらくの間フランスでかくまい、その後国外亡命を企てていたのです。
けれども、彼の声はかき消され、危険を感じたバッツ男爵は群集に紛れ込んでその場を離れ、ロンドンに向かいます。
1793年1月21日、10時22分、 38歳の生涯を閉じたルイ16世。 |
何事もなかったかのように馬車は進み、広場に着いたのは、10時を少しまわったころでした。
馬車を降り、上着を自ら脱ぎ、神父の足元にひざまずき最後の祈りを捧げたルイ16世は、しっかりした足取りで処刑台の階段をのぼります。
処刑直前に彼が国民に向けて語った言葉は、途中から刑実行を告げる太鼓の音にかき消され、王の最後の言葉を聞いた人は誰もいませんでした。