2023年11月22日

源氏物語とフランス人

ギメ東洋美術館で開催中の展覧会「源氏の宮廷で」が素晴らしい。そこには日本の平安時代の雅な世界が漂っています。

会場は二つにわかれていて、まず、「源氏物語」が生まれた平安時代に訪問者を導きます。何と麗しい時代だったことよ!! このような高雅な宮廷文化が栄えた時代に身を置くことが、パリで出来るなんて、無条件に大感激。「枕草子」「古今和歌集」そして、何よりも「源氏物語」といった優れた日本文学が生まれた、約400年ほど続いた平安時代の麗しい雰囲気に浸れるのは、この上ない幸せ。

展覧会会場に入ると、そこは、すでに、平安時代。
典雅な世界が広がっています。

紫式部の肖像画。高位の宮廷人だったことがお召し物から伝わってきます。


18世紀末に再現された駕籠。
内部にもきめ細やかな装飾があり、
そこに身を置く宮廷人の優美な姿が浮かび上がります。

マリー・アントワネットが18世紀の日本の漆器を多数コレクションしていて、その中に「源氏物語」を描いた漆器もあり、今回その内の数点が展示されています。もちろん当時は紫式部が書いた宮廷物語はフランスでは知られていなかったから、王妃は単にそこに描かれている絵と器のフォルムに惹かれたのでしょうが、さすが優れた審美眼の持ち主のマリー・アントワネット。この作品は他の漆器と一緒に、革命初期に機転をきかせた王妃が専門家に保管を依頼したお蔭で、無事だったのです。

「源氏物語」をテーマにした18世紀の日本のすずり箱。

珍しい6角形の小箱。これも「源氏物語」がテーマ。
二つともマリー・アントワネットのコレクションで、
王妃はヴェルサイユ宮殿の私室「黄金の間」に日本の漆器を飾っていました。
革命の際に難を逃れたのは幸いです。

その奥の会場には、西陣織物制作の第一人である山口伊太郎(1901-2007)による「源氏物語」の織物絵巻に捧げられている。氏は70歳から亡くなる105歳までに、4巻の絵巻物語を手がけ、そのすべてをギメ東洋美術館に寄贈。全長30メートルの大作が一挙に展示されるのは今回が初めて。シルク、金銀のプラスティック糸、金銀の紙などを、フランスのジャガード織物機を導入して制作。

「源氏物語」の織物絵巻。山口伊太郎による4巻の大作。

全長30メートルにも及ぶ絵巻を一挙に公開するのは初めて。

これが織物だと、とても信じられないほど精密。

フランス人が平安時代の古典「源氏物語」に触れたのは19世紀末で、それは批評文に過ぎなかった。1910年には法律家で日本学者のミシェル・ルヴォン(1867-1947)が抄訳を発表し、これが「源氏物語」のフランス語初の訳とされている。

1988年になるとフランス国立東洋言語文化研究所長のルネ・シフェール(1923-2004)が「源氏物語」を完訳。彼はそれ以前に「万葉集」の翻訳を手掛けた日本古典文学の巨匠。

2007年にシフェールの翻訳の豪華本が出版され、即、購入しました。何が素晴らしいかと言うと、シフェールによる「源氏物語」54帖の全訳と、日本の寺院や世界各国の美術館が所蔵する520点の源氏絵を集めた、いわば源氏物語絵巻本なのです。しかもオールカラー。分厚い3巻は美しい箱に収められ、それを見るだけで宮廷文化の芳しい香りに浸れるほど。初版3500部はあっという間に完売。その貴重な一冊が我が家の本棚で輝いています。こうしたことからも、フランス人がいかに古典文学「源氏物語」に大きな関心を抱いているかわかります。

ルネ・シフェールが手掛けた「源氏物語」
約500ユーロ、でも迷わず購入しました。
520枚もの源氏絵は何度見ても感動します。

我が家のシンプルな本箱で、ひときわの輝きを放っています。

ギメ東洋美術館で味わえる典雅華麗な「源氏物語」の世界。忘れがたい展覧会です。

日本が大好きなフランス人と、ヴェルニサージュの日に。