フランス中を熱狂の渦に巻き込んでいた大統領選の結果、若干39歳の中道・独立派のエマニュエル・マクロンが、66 ,1%の高い支持率で選ばれました。
20時に当選がテレビで発表されると、マクロンは支持者が待つ15区の陣営で、神妙な面持ちで言葉を述べました。笑顔をまったく見せず、引き締まった顔で語るマクロンには、大統領に選ばれた喜びよりも、この重要な任務を5年間背負う大きな責任感、それをしっかりこなす強い意志が感じられ、それだけに心の奥に響く感動がありました。
振り返ってみると、彼の飛躍は歴史に残るほど目覚しい。
2016年4月、「前進」という政治運動を創立、
8月、経済相辞任、
11月、大統領選に出馬する意向があると発表、
2017年3月、中道・独立派として大統領選に出馬。
5月7日、フランス大統領に選出。
これほど驚異的な短期間でフランス国民の支持を得した人は過去にいない。
当初は懐疑的だった多くの人を、飛ぶ鳥を落とす勢いで支持者に変えたマクロンは、高校時代から文学青年で大学で哲学を専攻し学位を取得。
それにふさわしい正統な美しいフランス語で、母国の大きな改革を訴えるマクロンの言葉には、説得力がある。深い知性、教養、強い正義感、使命感が感じられる。若い年齢にもかかわらず公約を実行に移す強靭さがある。
政界、財界、芸能、スポーツ界、若者だけでなく、アメリカ前大統領オバマがビデオ・メッセージを送って応援したほどの輝きが彼にある。
私から見るとマクロンは21世紀のナポレオンに匹敵する人。
ナポレオンは革命で混乱していた時代に、突然、彗星のごとくに登場し、驚異的に素早い決断力、実行力、勇気で矢継ぎ早に改革を行った。
当初は彼の若い年齢と経験不足に不安を抱き、懐疑的だった兵士や国民でしたが、それをまたたく間に抑えた類稀な人物。
このように、マクロンとの間にいくつも共通点がある。
でも大きな違いもあります。ナポレオンが粗野で女性を軽視していたのに対し、マクロンはブルジョアの家庭に生まれ育った品があり、女性を重視していること。
決戦の正式発表があったとき、マクロン支持者はルーヴル美術館のピラミッドの前にいた。そこには大きなスクリーンがふたつ設置されていて、マクロン当選が映し出されると大歓声があがり、手にしているフランス国旗がいっせいに揺れ動きました。
12世紀のフィリップ・オーギュスト国王の時代から、19世紀のナポレオン3世皇帝の時代までの歴史を刻んだ重厚な建造物のルーブル。そこに展示してあるのは古代から19世紀までの世界の美術品。
この地こそグローバル主義のマクロンにふさわしい。
22時30分ころ、陣営を離れたマクロンが大掛かりな警備の中ルーヴルに到着。
コートに身を包んだマクロンは、EUの歌とされているべートーヴェン作曲の交響曲第9番「歓喜の歌」にのって、ひとりでピラミッドに向かいゆっくり歩を進めていました。 それも深く感動的な場面でした。
高い台にのぼり約15000人の人の波の前に立ったとき、マクロンは初めて笑顔を見せた。顔いっぱいに広げた笑顔で何度もうなづき、両手を挙げて勝利の喜びを分かち合い、
「友よ・・・」
と張りのある声でエネルギッシュに語りかける。
「友よ、これは民衆主義の勝利なのだ。新しい時代が始まったのだ、
私は全力をあげてフランスを守る、ヨーロッパを守る。
今やしっかりと団結しなければならない。
期待をかけている多くの人々を失望させたくない。
私には、友よ、あなたたちが必要なのです」
演説が終わるとブリジット夫人が壇上に現れた、感激の涙がこぼれおちていた。
その後マクロンとの家族とブリジットの子供や孫もジョイントし、支持者たちと一緒にフランス国歌を力強く歌う。
すっかり暗くなった5月の空に歌声が響き、39歳の新大統領誕生の歴史的日は終わった。
今、フランスは新しい時代を迎え、大きな変化が生まれようとしている。
こうした時期にフランスに、パリに住んでいるのは刺激的で感動的です。