2023年9月3日

リッツパリのオーナー、モハメド・アルファイドの思い出

ヴァンドーム広場に面したホテル、リッツパリは、パリで最も優美で、最もパリらしいホテル。一歩中に入っただけで、かつての貴族館だった雰囲気に満たされるのが、何と言っても大きな魅力。

ヴァンドーム広場でひときわの輝きを放っているリッツパリ。

このホテルを1979年に買収したエジプト人、モハメド・アルファイドの名が一躍世界に広がったのは、1997年8月31日。イギリス元皇太子妃ダイアナとアルファイドの息子ドディが、パリで自動車事故で亡くなった日でした。

アルファイドは息子ドディがダイアナと婚約していて、エジプト人との結婚を許せないイギリス王室関係の人による陰謀だ、とか、二人を暗殺させたのだ、とか衝撃的な発言をしたと伝えられました。あまりのことに、世界中が驚愕。このときからモハメド・アルファイドの名が、マスコミに頻繁に取り上げられるようになったのは周知の通り。

二人が結婚した後は、パリ近郊のブローニュの森の中にある館に暮らす予定だと語ったこともあります。この館はイギリスの「王冠をかけた恋」で王位を捨て、ウインザー公となった以前のイギリス国王エドワード8世が、夫人と暮らしていて、夫妻亡き後アルファイドが高額で借ていた瀟洒な館。最愛の息子と元イギリス皇太子妃が新婚生活を送るのに、ふさわしいと思っていたのです。

けれどもその夢は消え、失意のうちにその館を手放したアルファイドは、リッツパリに情熱を傾けます。ある日、ホテルのバー・ヴァンドームで友人とティータイムを楽しんでいたときに、アルファイドが姿を見せ、息がとまるほど驚いたことがあります。ひとめで高級だとわかるグレーのスーツを着ていて、輝く大きな瞳でバー・ヴァンドームを見回すと、あっと言う間に姿を消したのです。数秒間なのに、今でもはっきり思い出せるほどの輝きがある人でした。ホテル内の様子を隅々まで自分の目で確かめていたのでしょう。

ドディが婚約祝いにダイアナにプゼントする予定だったリングを製作したのは、モナコに本店を構えるレポシ。ヴァンドーム広場にもお店を持っていて、当時の社長アルベルト・レポシは私の長年の友人。事故でドディとダイアナが亡くなったけれど、リングはどうなったのか、支払いはどうなったのかとアルベルトに聞くと、リングは届け、支払いはドディの父がしてくれたと語ってくれました。

ハローズ内のダイアナとドディを偲ぶ記念碑。

1985年にロンドンの老舗デパート、ハローズを買収し、それから12年後にドディとダイアナが亡くなると、デパート内に二人を偲ぶ記念碑を作り、2010年にはハローズを手放し、その後はアルファイド慈善財団を通して多くの団体を惜しみなく支援し、8月30日、94歳の人生を閉じました。