2023年9月6日

資生堂、福原義春氏の思い出

 資生堂の名誉会長、福原義春氏との忘れがたい思い出があります。1998年、彫刻のような靴で世界的に有名なシューズデザイナー、ロジェ・ヴィヴィエ展を、銀座にあるザ・ギンザアートスペースで開催していただいた時のことです。当時福原氏は社長から会長になって間もない頃だったと記憶しています。

ロジェ・ヴィヴィエとはその2年ほど前に知り合い、ルーヴル美術館で展覧会をした後、東京でも展覧会が出来たら素晴らしいという話が出たのです。それでは何とかスポンサーを見つけてみましょう、確約は出来ないけれど、と言って直ちに行動開始。

ザ・ギンザアートスペースでのロジェ・ヴィヴィエ展。
多くのプレスが語って下さいました。

コンタクトをしたのは資生堂。ザ・ギンザアートスペースが最適だと思っていたからです。会長の福原義春氏はフランスに傾倒していて、しかもメセナ活動に尽力なさっている。祈るような気持ちでディレクターに連絡すると、会長はロジェ・ヴィヴィエの才能を高く評価していて、ぜひとも展覧会をとおっしゃっていられるとの光栄なお返事。開催期間は6月中旬から7月中旬までの一ヵ月。

当時ロジェ・ヴィヴィエは90歳だったので、展覧会担当の人は本人が東京に来れるかでしょうか、と心配げ。健康にまったく問題ないロジェは大喜びでもちろん行くと返事。京都にも足を延ばそうと大変な意気込み。

会長室での福原義春氏とロジェ・ヴィヴィエ。

福原氏のおもてなしに感動するロジェ。

ロジェ、養子のジェラール、私の3人は心を弾ませながらJALで日本へ。宿泊は会場に歩いて行かれる距離の帝国ホテル。展覧会で展示されたのは50足。どれも代表作で、一足ずつガラスケースに入れてあり、その配慮にロジェは大感激。会長室で福原氏との会談と記念撮影も予定外だったので、それもロジェのデリケートな心を打ったようです。展覧会開催をお祝いするケーキも立派だったし、それ以上に感動したのは京都。

老舗の旅館に2泊し、ワインも何本も開け、いざお支払いをと請求書を求めると「資生堂さんのご招待と承っております」と言われたのです。何とエレガントな心遣いであることよ。そのさりげない品位ある美しい接待に、福原氏の比類なきお人柄を見る思いでした。

オープニングパーティー、会食、たくさんのインタヴューの後、
新幹線で京都へ。そこで3日間の休暇を終え大坂からパリに戻りました。
それから3カ月後、ロジェは90歳の生涯を閉じました。

世界に誇る大企業に発展させた福原義春氏。92歳の充実した人生を終えられたとの報道に、かつての思い出のひとつがよみがえりました。心からご冥福をお祈りいたします。