2021年6月14日

メトロの駅名は語る 169

Cour Saint-Emillion
クール・サン=テミリオン(14号線)

名産のワイン、サン=テミリオンの名を冠する「サン=テミリオン広場」にちなんだ駅名。

ベルシーにはこのように
ワイン商人のための倉庫が多数ありました。1908年。

このメトロの駅があるベルシー地区には、かつて、ワイン商人用の倉庫が多数あり、フランス南部から運ばれるワインを大量に積んだ列車が発着する駅もありました。
パリに列車で運ばれるワインの中には、まろやかでコクがあり、気品あるサン=テミリオンの赤ワインもありました。1998年にオープンしたクール・サン=テミリオン駅は、その名残で、以前あった駅の中に建築されました。
サン=テミリオンは、ボルドーの北東にある、世界で初めて世界遺産に登録された高級ワインの産地。この地でブドウが栽培されるようになったのは、ローマ人がフランスを支配していた、ガロ=ロマンの時代にさかのぼります。ガロ=ロマンが始まったのは、紀元前1世紀です。当時、この地域は、サン=テミリオンとは呼ばれていませんでした。
町名の由来は、ブルターニュ地方出身の僧エミリオンが、8世紀にこの地を選んで隠遁生活を送っていたためで、サン=テミリオンは聖エミリオンという意味です。
エミリオンはブルターニュ地方のヴァンヌで生まれ、ヴァンヌ公の執事を務めていました。その時代から慈悲深かったエミリオンは、ヴァンヌの貧しい人々に、主君に隠れてパンを配っていたとされています。
後にヴァンヌを離れ、南西の町ソジョンのベネディクト派の修道院に入ったエミリオンは、そこで僧になります。やがて奇跡を起こすようなり、それを伝え聞いた多くの人々が、ソジョンに押しかけるよになったのでした。あまりにも多くの人が奇跡を求めて会いに来るので、疲れ果てたエミリオンは、ソジョンを離れ、森の中の岩を掘り、そこで隠遁生活を送ることにし、767年に生涯を閉じます。

聖エミリオン像。


エミリオンが暮らし、生涯を閉じた洞窟跡に、
11世紀に立派なモノリス教会が建築されました。

エミリオンを慕ってその地に暮らすようになった僧たちは、その界隈で作物を作っているうちに、土壌がブドウに適しているとわかり、ブドウ栽培に力を入れ、上質のワインを醸造するようになったのでした。