2024年8月12日

オリンピックの革命

 セーヌ川でのオープニングセレモニーで世界を驚愕させ、マンネリ化したオリンピックに強烈な刺激を与え、新たな息吹を吹き込んだパリオリンピック。コンコルド広場、エッフェル塔、アンヴァリッド、ヴェルサイユ宮殿などモニュメントが見える特設会場で競技が行われたのも、街中を流れるセーヌ川で競泳が行われたのも前代未聞。そして、あの、夕刻からパリの空高く舞い上がる気球形の聖火台。

多くの人を感動させたパリオリンピック。
心の奥深くに刻まれた忘れがたい美しい光景。

こうした全てがフランス人ならではの独創的な発案。これだけでもオリンピックの革命と呼ぶのにふさわしい。それなのに、最後を飾るマラソンがまたすごい。

男性マラソンで締めくくるのが従来のオリンピック。それが今回は男性マラソンが8月10日で、女性マラソンはクロージングセレモニーが行われる晴れの11日。出発点はパリ市庁舎前広場で、ヴェルサイユに向かい、そこで折り返しパリのアンヴァリッドがゴール。走行距離は42,195km

パリ市庁舎前広場からヴェルサイユに向かうマラソンは、革命が悪化を辿る1789年10月5-6日の女性たちを中心とする行進を彷彿させる。10月5日、パンも食べられない悲惨な生活を国王ルイ16世に訴えるために、ヴェルサイユ宮殿まで行進しようと、パリ市庁舎前広場に集まったのは7000人の女性と100人の男性だった。市庁舎の兵器庫から大砲を持ち出し、槍を振りかざし空腹と寒さと戦いながらヴェルサイユに向かう群衆たちは、途中から雨が降り出したにもかかわらず、宮殿への行進を止めることはなかった。翌朝、暴徒と化した彼らは宮殿内に入り込み、国王一家は捕らわれパリへ連行され、二度とヴェルサイユに戻ることなく王政が廃止され、共和国が樹立された。

マラソンの出発点にしても、ヴェルサイユに向かうのも、ゴールがアンヴァリッドなのも、すべて、革命を意識しているように思えてならない。歴史的に名高いバスティーユ襲撃に必要な武器を、革命家たちが奪ったのはアンヴァリッドの武器庫だった。

パリオリンピックの金、銀、銅メダル。
中央のフランスの国の形を表す六角形に、
修理の際に取りはずし保存しておいた
1889年のオリジナルのエッフェル塔の柱の一部を使用。
その周りに施した太陽は凹凸があり、ひときわの輝きを放っている。
ギュスタヴ・エッフェエルお気に入りの宝飾店ショーメがデザインし、
造幣局が製造。


オリンピックの最後を飾るマラソンも型破りで、選ばれたアスリートだけでなく、一般の人のマラソンもあり「市民マラソン」と呼ばれ、正式のマラソンと同じ日の夜に開催。コースはふたつ。アスリートと同じコース同じ距離を走るのと、パリ市内だけの10kmの短いマラソン。

競技場スタッド・ドゥ・フランスでのクロージングセレモニーは、世界的に有名なフランスの軽快な歌を選手と観客が一体となって歌い、クラシックやポップのライブが響き渡った。ギリシャのサモトラケのニケが姿を現し、空中に浮かぶピアノが奏でられ、アメリカの俳優トム・クルーズがスタジアムの屋上からワイアー付きで舞い降り、オリンピック旗を舞台で受け取り、振りかざし、次の開催地ロサンゼルスに向かうためにバイクに乗り、その後、勢いよくパリを滑走し、飛行機でロサンゼルスを目指す映像が流れる演出。まるでアクション映画をみる思い。

夜9時に始まったセレモニーは真夜中まで続き、聖火が消され、熱狂に包まれたパリオリンピックは終わった。28日からはパラリンピックが始まり、新たな感動を世界に届けるでしょう。


アートの国フランスならではの
コンテンポラリーで品格あるオリンピックのロゴ。


すべてが新しく生まれ変わっようなパリオリンピック。近代オリンピックの生みの親クーベルタン男爵の祖国フランスは、今年、過去から勢いよく脱出し、独創的かつ斬新なオリンピックを世界中に高らかに示した。それは、新時代到来の歓喜が満ち溢れているスポーツの祭典だった。

カルーセルの凱旋門と聖火台が相まって生む幻想的な世界。
あまりの美しさに声も出ない。胸が高まり熱い涙が浮かぶのみ。

絶賛の嵐を受けたこの聖火台は
パリの新しいモニュメントとして残すことに決定。
場所は今のところ未定。

どの競技場でもフランス人観客は愛国心の固まりとなり、国歌を力強く歌い、選手たちの活躍も期待を大きくうわまわり、過去最多の64ものメダルを獲得。フランス中を熱狂の渦に巻き込み、全国民の団結を示した忘れがたい歴史的オリンピック。

パリオリンピック2024
たくさんの感動をありがとう!!!