2016年10月7日

ああ、マロニエよ・・・・

秋のマロニエ。情緒がありますね。
秋のマロニエを見るたびに思い出すのは、永井荷風の「ふらんす物語」。

・・・ああ、マロニエよ、わが悲しみ、わが悩み、わが喜び。
  わが秘密を知るものは、マロニエよ、汝にのみなり。・・・

33歳の永井荷風。
永井荷風がフランスに滞在したのは28歳のときで、約10ヶ月の短い期間。
そのときの体験を綴った「ふらんす物語」はかなり感傷的。
秋に思い出すのは多分そのためでしょう。

・・・パリでは樹木一本でも野生のままにして置かない。
   枝を切る、高さをそろえる・・・

永井荷風の言葉を思い出しながらパリの自然を見るのも、ときにはいいものです。
特に秋は。

38歳の横光利一。
パリを愛した文豪に横光利一もいます。彼は名作「旅愁」に、春先のマロニエについて次のように書いています。

・・・磨かぬ石炭のように黒黒と堅そうな幹は盛り繁った若葉を垂れ、
  その葉叢の一群ごとに、やがて花になろうとする穂のうす白い蕾も頭を
  擡げようとしていた。・・・

このような繊細な心で綴った文を読むと、マロニエの木がいつもの木ではなく、芸術的に見えたり、息吹が感じられ貴重なものとなり、より一層いとおしくなります。

急に寒くなったパリ。今朝から暖房が入っているパリ。マロニエの葉が次々と落ちる季節です。